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別れのバルカローラ

貴方と交わした、最後の言葉。

※湊が兄という存在をやたらと拒むようになった原因の、昔のお話。
暗くて重すぎ注意ですが、今更そっとこちらの片隅において置きます。





「…ね、湊。楽しい?」

さんざめく波の音。掬い上げれば透明なのに、何故か蒼く見える地平線。
ゆらりゆらりと揺れる小船と一緒に揺れる、楽しそうな青年。

「……全然。」

同乗していた青年と同じ髪、瞳の色を持った少年は
しかし青年とは正反対な心底面白く無さそうな表情で答えた。
そっかぁ、と青年は苦笑して頭を掻く。
船に乗る前から変わらず、ずっとこの調子。
昔は喜んでくれたこの船も、今は少年にとってはどうでもいいらしい。

「それで、何の用?」
ゆっくりとそれほど深くない位置を進む小船。
なかなか話を切り出さない青年に痺れを切らしたのか
青年の目は見ずに、少年が短く呟いた。
「…最近、湊あんまり機嫌よくないなぁって、思って。」
ゆっくり切り出せば、不機嫌そうな目線を返しただけで、少年は何も言わない。
青年はそんな少年を横目で見てまた苦笑した。
「…やっぱり、僕の所為かな?」
「…さぁね。」
水を掬い上げて、水面に落とす。踊る水面を見つめるばかりの少年。
何となく、お前の所為だと暗に言われている気がした青年は、少し遠くを見た。
沈みかけてきた太陽。しかし雲の所為でとても綺麗とは思えない。
やがて、何か意を決したように少年を見る。
「何か嫌だったら、遠慮せずに言ってくれて構わないよ?」
少年は、無反応。
暫く続いた、波の音だけがやけに騒がしい、静寂。

やがてその静寂を裂く、透明感のある歌声。
少年が少しだけ顔を上げた。
青年は海の遠く、地平線の向こうを少しだけ微笑みながら見つめて
小さく、水のように、海の動きと合わせる様な旋律を紡いで。

それは、綺麗で切ない唄だった。

「……何それ。」
ポツリ、少年が呟いて、唄が止む。
青年は振り向くと、ゆっくりと微笑んだ。
「小さい時に、母上が教えてくれた唄だよ。子守唄代わりに。」
何となく、海に似合う曲だと思わない?
そう続ける青年の目の前で、少年の表情が変わっていく。
「…何、それ。」
今度は純粋な疑問としてではなく、憎しみを込めたような、そんな声。

「そんなの、母上は教えてくれなかった。何、それ。」
勢いよく少年が立ち上がって、船が揺れる。
「みな…、危な…!」
「いいよ、言ってほしいなら言ってあげる。」
軋む様な、自嘲気味の笑顔。


「お前の存在自体が嫌なんだよ。
 俺の出来ない事、全部目の前でやって見せて
 その上、まるで出来損ないの俺を守るかのようにいつも庇ってさ。
 母上と父上に、そんなに褒められたいの?馬鹿じゃないの?」


一思いに切り捨てるように、笑ったまま叫ぶように、少年は言い切った。
青年は暫くあっけに取られて、それから小さく謝った。
それしか、言葉は思い浮かばなかった。
しかしその言葉を聞いた少年の笑顔はすぐまた歪んで、目を逸らすように俯く。
「…っ、最悪。」
青年が何か声をかけようと手を伸ばした瞬間、少年はその手を跳ね除けた。
「俺の気も知らないで、そんな一言で片付けるのかよ。
 今までの俺の努力を踏みにじるのか。そうか、俺はお前の踏み台なのか。」
青年が否定しようと顔を上げた。
しかし、少年の顔を見た瞬間にそれは、叶わなくなった。


「死ねよ。…死んじまえよ、いっそ、お前なんか…っ!」


透明な瞳から同じ色の、雫。掬った海のカケラと、同じ色。

バシャン

少年の零した涙の、その一瞬に固まっていた青年が、顔にかかった水で我に返ると
少年は海に飛び降り、そのまま泳いで岸まで戻っていた。
独り、小さな船の上。青年は、独り。
「…あぁ、何やってるんだろう…。何で、泣かしてるんだろう、僕。」
こんなことをしたかった訳じゃない。でも、全て分かってしまった。
こんなに嫌われてたなんて、思わなかった。
どこを直せばいいのかとか、そんな問題じゃなくて、少年は…。
少年を追うことはせずに、青年は小さく旋律を紡ぎ始めた。
海の遠く、赤く染まりかけた地平線の向こうを、苦しそうに微笑みながら見つめて


僕がこの地へ還るときは海に溶けて、薄く薄く、消えて無くなりたい
貴方が気づかないように、貴方の記憶から消えるように
それで貴方があんな笑みじゃなくて、心から微笑むことができるなら
僕は小さく小さくなって、貴方を見守るから


それは、綺麗で哀しい唄だった。



独り、海に溶けるように響いた、バルカローラ。
船に残した青年が翌日、この地上から消えてなくなることを
泣きながら浜を駆けていった少年は、まだ知らない。

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