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冷温

ふと、気づいたんだ。

俺は最初から格好悪くて、弱くて、臆病で。
だからもう今更泣き喚いたって這いつくばってたって
なんら可笑しい事ではないのだ。
いつもうわべだけ取り繕っている俺しか知らない人間は、驚くだろうけど。

エピローグに向けて。
湊の未来に繋がる話でもあるので、少々暗くはありますがそっと投下。


―吹きすさぶ、白。
数日前まではただの氷点下の世界だと聞いたのに
ものの数日でその場所は姿を変えていた。
数度上がった気温。その代価に、真っ白な世界。

…正直、物凄く寒い。
北国出身だとは言え、向こうの気温に慣れればこうなるのは当たり前だ。
それとも自分の体温が下がりすぎたのか。
手袋をはめた両手を合わせたところで、冷え切った両手から
温もりなど生まれるはずもなかった。

温もりなど、何処にも。

今自分が進む、先にも。

それは二度目の帰郷で。
でも、一度目は実家にある場所に寄らずに帰ったので、正確には初めての帰郷だった。
静かに足を進めるも、深さを増す雪に足をとられて上手く進めない。
もう帰ろうかと、血の気の引いた顔が道から反れる。

(…随分と、遠くへ来たものだ)

確か数年前。あの里から逃げてたどり着いた先で、同じことを思った気がする。
あの時は「逃げる」んじゃなくて
生きるための希望が欲しくて、他の場所に「行く」んだとか思ってた。
今思えばそれは紛れもなく逃げで
きっとその時も心のどこかで気づいていたけれど
それからさえも、逃げていた。

ただ、怖かった。あの里で生きていく自信がなくて。
…死にたくなかった。
逃げたら助かるかも、その先でもっと酷い目にあって死ぬかも分からなくて。
ただただ、怖かった。


『責め苛む言葉は果たして、本当にあなたが受け止めた数だけ連ねられたのかしら?』


それは自分の考えを根本的なところから否定する言葉で。
今まで自分がやってきた全ての努力を無意味だったと言うような言葉だった。
全てが責め苛む言葉ではなかったなら
俺はとっくに逃げることなどやめていただろうと。
…でも、否定できなかったのだ、どうしても。


本当は、兄上は。
俺にも強くなってほしくて、目の前で色んなことをやって見せた。
父上は、決して俺を次期棟梁から降ろすとは、言わなかった。
母上は…俺の首を絞めた後、きっと。我に返った。
里の人だってきっと、俺が見えない所で誰か、心の中で味方してくれていた人は、

(……いた、のかな。)

非道な人間は確かにたくさんいた。
幼い頃、自分が考えていたよりも凄く。
けれど、そうじゃない人も確かにいた。

彼らは、どうだっただろう。
…非道な人間もいた。けれど、きっと全てが全て、そうでは無かったのかもしれない。

そんな希望が、今更芽生えて。
今更、真実なんてわからないし、誰も何も救われないというのに。


本当はこれは、里帰りとは言わないのだろう。
自分が向かっている場所は、今は何もないただの山で
行ってきっと分かるのは
自分が里を出て行ったすぐ後に里は襲撃を受けて滅んだ。
そんな風の噂が、本当か否か。それだけだ。

雪を踏みしめる音も聞こえなくなりそうな、真っ白の世界。
好きだったなぁ。これだけは。
無邪気に笑ってた時も、必死に何かにすがっていた時も
絶望に何もかも染まった時も、上辺だけの仮面を被っていた時も
…その仮面が外れかかった、今も。

ゆらゆらと視線が漂って、白く霞む世界を見る。
降り続く白が、黒い自分を隠してくれる。
消えてしまいたいと、何度も思った。
それは、まだ、


(……あ、)


思考の途中で、足が止まった。
それは、細く細く続いた道の終わり。

プツリと途切れたその先には、ただただ白い空間があった。

(…本当だったんだ、やっぱり)
何処に何があったのか。
断片的には思い出せても、このまっさらな雪の上では照らし合わす事もできない。
本当にここに里があったのかさえも分からなくて
呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

事実と、ただの虚しさ。
何かを考えるにはあまりに寒くて、何もなくて。
細めた目を、そっと来た道へと戻そうと動かした瞬間に
ひとつ、白以外の色が視界に入った。


―…小さな、竹林。


それは、そこは、そこには。

確か、確か、……兄上の、墓が。


思った時には足は動き出していて、でも、雪で突っかかって、膝が折れた。
視線がガタンと下がって、乾燥した軽い粉のような雪が舞い上がって
それでも見上げた先には
半分埋まった、竹林への行き先を表していた細く小さい看板が倒れていて

(あぁ、あの看板…凄く、錆びてるなぁ)

心の中で呟いたら、何故かとても、悲しくなった。



全てが凍てつく寒さの中。
凍らずに落ちた透明な何かが
自分が人間であるという事を、しっかりと教えている気がした。







故郷跡地と、占い師の言葉

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